外傷の分野にも血管内治療の波が!?
- S A
- 10月25日
- 読了時間: 3分
〜慢性硬膜下血腫に対するMMA塞栓術の最前線〜

脳卒中の治療で急速に広まっている脳血管内治療。実は今、その波が外傷性疾患にも押し寄せています。
その代表例が、**慢性硬膜下血腫(CSDH)に対する中硬膜動脈塞栓術(MMA塞栓術)**です。これまで慢性硬膜下血腫の治療といえば、「穿頭洗浄術」が一般的でした。しかし、手術後の再発率は10〜20%程度と報告されており(日本脳神経外傷学会, 2023)、再発例の対応に悩む現場も少なくありません。
◆ 再発率を下げる新しいアプローチ
最近注目されているのが、このMMA塞栓術。
カテーテルを**手首(橈骨動脈)またはタバコ窩(親指付け根)から挿入し、中硬膜動脈まで到達。そこに塞栓物質(例:エンボスフィア、NBCAなど)**を投与し、血腫を栄養している微小血管の血流を遮断することで、血腫の再発を防ぐという治療法です。
低侵襲で、高齢者や抗凝固療法中の患者にも施行しやすい点が、臨床現場で注目されている理由です。実際、穿頭術後の再発率を有意に低下させる可能性が、いくつかの報告で示されています(Srivatsan et al., World Neurosurg 2019)。
◆ 学会でも注目のテーマに
2024年の日本脳神経外傷学会学術集会でも、MMA塞栓術はシンポジウムの主要テーマとして取り上げられました。これまで“血管内治療=脳梗塞”のイメージが強かった中で、外傷性病変に対しても応用が進むことは、大きなパラダイムシフトといえます。
とはいえ、現時点で得られているエビデンスは主に後方視的研究に基づくものであり、今後の**大規模ランダム化比較試験(RCT)**の結果が待たれています。国内外で複数のRCTが進行中であり、今後の標準治療を変える可能性も期待されています。
◆ 看護師・コメディカルに求められる視点
MMA塞栓術が広がることで、看護師やコメディカルにも新たな知識が必要になります。たとえば、
穿刺部位(橈骨動脈)の観察ポイント
術後の頭痛・再膨張症候群への対応
抗血小板薬や抗凝固薬の管理
など、従来の穿頭術とは異なるケアが求められます。「脳血管内治療はカテーテル操作だけの世界」ではなく、チームで支える時代に入っているのです。
🧠 編集後記
外傷にまで広がる血管内治療の進歩。「低侵襲=看護が簡単」ではなく、**“新しい技術を支えるための観察眼”**がますます重要になっています。今後の学会報告や臨床研究の動向から、目が離せません。
🔍 参考文献
日本脳神経外傷学会(2023). 「慢性硬膜下血腫治療ガイドライン2023」
Srivatsan A, et al. Middle Meningeal Artery Embolization for Chronic Subdural Hematoma: Meta-Analysis and Systematic Review. World Neurosurgery. 2019;122:613–619.
日本脳神経外科学会(2024). 「第47回日本脳神経外傷学会学術集会プログラム」
Link TW, et al. Middle meningeal artery embolization for chronic subdural hematoma: a systematic review and meta-analysis. Neurosurgery. 2020;87(4):665–672.
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