急性期脳卒中患者に対する弾性ストッキングは本当に必要か?
- S A
- 11月13日
- 読了時間: 3分
🧠冬に増える脳卒中 ― 知っておきたい最新エビデンス
寒くなると、脳卒中の患者さんが増える——脳神経外科の現場では、毎年冬になるとその傾向を実感されている方も多いのではないでしょうか。
実際、厚生労働省や日本脳卒中学会の報告によると、脳卒中の発症率は冬季に最も高く、特に朝の時間帯に多いことが知られています。
寒冷刺激により血圧が急上昇し、脳血管に負担がかかることが一因と考えられています(出典:日本脳卒中学会「脳卒中データバンク2023」、厚生労働省「人口動態統計」)。
冬の季節には、血圧管理だけでなく、急性期ケアやリハビリ開始のタイミングなど、看護師・コメディカルが連携して対応することが重要になります。
今回は、その中でもよく議論される「急性期脳卒中患者に対する弾性ストッキングの使用」について、最新のエビデンスを整理してお伝えします。
(※冬季の脳卒中予防などについては、また別のコラムで詳しくご紹介します。)
🎓本日のテーマ
「急性期脳卒中患者に対する弾性ストッキングは本当に必要か?」

かつて、脳卒中患者の深部静脈血栓症(DVT)予防として、弾性ストッキングの装着は一般的な看護ケアの一つでした。
しかし、イギリスで行われた大規模臨床試験「CLOTS trial 1(Lancet, 2009)」の結果、急性期脳卒中患者への弾性ストッキング装着にDVT予防効果は認められず、さらに皮膚障害や下肢切断などの有害事象が報告されました。
この研究結果を受けて、日本脳卒中学会の「脳卒中治療ガイドライン2021」では、
「弾性ストッキングの装着は行うべきではない(推奨度E、エビデンスレベル中)」と明記されています。
一方で、日本循環器学会などが監修する「静脈血栓塞栓症予防ガイドライン(2022年版)」では、
「術前・術中・術後を通してリスクが持続する限り、終日装着を推奨」とされています。
この“相反するように見える”二つの推奨に、現場で迷われた方も多いのではないでしょうか。
💡どう考え、どう対応するのが現実的か?
結論としては、患者の状態と治療経過に応じて適切に使い分けることが重要です。
手術を要する脳卒中患者の場合:周術期のみ弾性ストッキングを装着し、術後は早期離床を最優先とします。離床が困難な場合は、**間欠的空気圧迫法(IPC)**を用いると良いでしょう。
手術を要さない脳卒中患者の場合:弾性ストッキングの装着は原則不要とされます。それよりも、早期リハビリテーションの開始と下肢筋ポンプ作用を促すケアが重要です。
(出典:日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021』/日本循環器学会『静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2022』)
🚶♀️早期離床・リハビリが最良の予防策
DVTの最大の予防は「動かすこと」。
急性期であっても、安全な範囲での早期離床や、理学療法士とのチームアプローチが何よりも効果的です。
看護師やコメディカルが「今、動かすことの意味」を理解し、声をかけることが、合併症予防にも直結します。
✨最後に
私たち脳神経外科看護研究会(NurCe)は、脳神経外科看護に携わる看護師、理学療法士、薬剤師、放射線技師など、すべての医療スタッフが根拠に基づいた実践を学べる場を目指しています。
臨床の「なぜ?」を一緒に解き明かし、チーム医療の力でより良いケアを。
次回以降のコラムでは、**「なぜ冬に脳卒中が増えるのか」**を、最新データとともに解説します。
🧩 参考文献・出典
日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021』
日本循環器学会『静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2022』
Dennis M. et al. Lancet. 2009;373(9679):1958-1965. (CLOTS trial 1)
日本脳卒中学会『脳卒中データバンク2023』
厚生労働省「人口動態統計」
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NurCeでは、実践的なセミナーやディスカッションを通して、現場の声に応えていきます。





